タリバソ先輩と私

(オリジナル小説)





序章 空から不寛容が降って来た! 〜タリバソ先輩登場〜

 押忍。

 自分は男塾中退後、東大を目指していたものの八浪目にして生活資金に窮したので早稲肉大を受けるも落第したので妥協して馬鹿田大学に入り現在は肉学部一号生筆頭を務める肉丸屑子36歳であります。

 その日の朝は、とても寒いものでした。あまりにも寒いので、自分は掛け布団を頭から被ったままで登校したました。長い距離を歩きに歩いて大学の校門を通ると、何ぞ生臭い香りが漂っているではありませんか。何かと思い臭いのする方へと歩いて行き、広場へと辿り着くと、そこには沢山の肉が景気よく散らばっていました。見ればそれは人の肉で、しかも普段広場付近で遊んでるちょっと不良気味な人達の肉でありました。日頃から彼等を疎ましく思っていた私は、ちょっとスキーリした気分になって鼻歌で「アンクルファッカー」を歌いながら、所属サークルである肉画研究会の部室へ向かうべくサークル肉館と向かいました。

 サークル肉館に一歩踏み入ると、何か奇妙な感じがしました。普段より、人の気配が極端に少ないのです。事実、人の姿が全く見えません。そして、仄かに肉の臭いがします。階段を上り始めると、一段上り詰める度に肉の臭いが強くなり、自分は被った布団の端を掻き寄せて警戒を新たにしました。

 誰とも擦れ違わないままに肉研の部室のある34階まで来ると、聞いた事のある音楽が微かに耳に入ってきました。これは……プレステ2の、武将になって敵兵を薙ぎ倒しまくるゲーム「肉・アフガソ無双」のBGMです。これが聞こえると言う事は、肉研の部室に肉岸先輩あたりが居ると思われます。この妙な状況から来る不安に背中を押される様に、自分は部室までの距離を素早く駆け抜けました。

 ズザーッと横滑りしながらドアの開いたままの部室入口でブレーキをかけ、中に一歩踏み入ろうとしながら内部の様子を見ると、そこには肉岸先輩はおらず、「肉・アフガソ無双」を映すテレビ画面は、ドヌタム将軍がアル刀イダ兵士を683人薙ぎ倒して肉にした所で放置されており、そして部室の中はうず高く肉が積み重なっているのでありました。勿論その肉は部員の方々の肉でした。

 部室に、肉の、山が、できていました。この肉は肉岡先輩のものでしょうか。あの見慣れない肉は、偶然部室を訪れていた肉文化研究会の肉栖川殿と思われます。肉原先輩は内臓まで異常に健康なオーラを放っております。保肉先輩がここで肉になっていると言う事は、理学部の研究室に放置された実験中の物がそのうち爆発するんじゃないかとかちょっと思いましたがどうでもいいです。

 入り口に立ったままで一通りの肉を見回したところで、死角になって見え難い位置に立っている人影に気付きました。フルフェイスの長縮れヒゲに、黒いターバンの人でした。

 その時、廊下から近づいて来る足跡が聞こえたかと思うと、誰かが部室の入り口に立ちました。

「先生! 完膚なきまでの圧勝であります!」

 それは、抜き身の日本刀を携え、全身に返り血を浴びた肉岸先輩でした。どうやら、一人で肉道部に討ち入りに行っていた模様です。

 その肉岸先輩も部室内の異常な状況に気付き、驚いた様子で部室内を見回すと、私を挟んで、肉岸先輩とあのターバンの人の目が合いました。

 ターバンの人がつかつかと歩き出しました。私に近づいて来ます。自分は困惑と恐怖の為か何の対処も取れませんでした。男塾で叩き込まれた幾多の殺人術も何故か出て来ませんでした。

 しかしその人はあっけなく自分の前を通り過ぎ、肉岸先輩の前へと行き、刃物を振り上げて振り下ろしました。

 肉岸先輩はアビャーと悲鳴を上げて肉になりました。

 それが、自分とタリバソ先輩が初めて会った日の事でした。

 後に聞く所によると、タリバソ先輩は無期停学中だったのが解けて肉研部室を訪れた所、ブルカを着用する者もヒゲを伸ばす者も皆無であった為に天誅を下した模様だそうです。その後、タリバソ先輩の魔の手は肉研だけに留まらず、連日、馬鹿田大学中の人達が次々と肉にされて行きました。タリバソ先輩の視界に入ったあらゆる馬鹿田生が肉にされました。タリバソ先輩がサークル代表会に出席すると、出席者全員が肉になり、タリバソ先輩が授業に出れば、受講者全てと講師が肉になりました。

 その日以来、自分は毎日布団を頭から被ったまま登校せざるを得なくなりました。タリバソ先輩と二人きりのサークル運営は大変な重圧でありました。部誌の原稿提出の日には、変な作品を出したら肉にされると思ったので「ああ、憧れのムジャヒディソ」というポエムを提出した所、変に褒められてしまい尚更恐怖を感じました。

 さて、タリバソ先輩が来て数日もすると、馬鹿田大学内の人間の数が目に見えて減ってきました。代わりに、肉がどんどん溜まって行きます。これは由々しき問題です。自分は、減り行く人間と増え行く肉の両面から、問題の解決を思索しました。

 いつも通り布団を頭から被ったままで校門を出ると、目の前を大型トラックが通りました。そしてその荷台には、大量の肉が満載されていました。それは、政府が構造改革とアフガソ援助を兼ねて行っている一大プロジェクト「主婦を肉にしてアフガソに送ろう」のトラックでした。「狩り尽くせ、一千万のガン細胞」の合言葉の下に、社会の不良債権たる第三号被保険者を捕獲、肉にしてアフガソに送るというプロジェクトで、既に約半数の五百万体の第三号被保険者を肉にしてアフガソに送っており、数え切れない数の難民達の尊い命を繋ぎました。人道支援と国内構造改革を同時に進める優れた手段として、国内だけではなく国外からも大きな評価を受けています。

 そのトラックを見て、自分は馬鹿田大に増え続ける肉の適切な処分法を思い付きました。

 自分は貧しいのでアフガソまで肉を送る財力はありませんが、上野公園まで運んで隣人達に振る舞う事は出来ると考えたのであります。早速、持てるだけの肉を持って上野公園に帰ると、隣人達に振舞いました。その時、自分は隣人達が一様にヒゲが伸びている事に気付きました。彼等なら、馬鹿田大の敷地内に入っても、タリバソ先輩に肉にされないで済みそうです。幾人かを馬鹿田大まで連れて行けば、更なる肉を回収できると共に、あわよくばタリバソ先輩を始末できるかも知れません。

 翌日、自分は隣人達の内から特に元気で、ヒゲ量が多い者を7人ほど率いると、馬鹿田大へと向かいました。しかし、事態は円滑には進みませんでした。上野駅の前まで来た所で、1人が電車に乗りたいと言い出しました。何たる贅沢。自分は激しく憤り、刃物を振り上げると彼を肉にしました。そこから暫く北上し、日暮里あたりまで進むと、人数が2人減っていました。探し回ってみると、駄菓子問屋横丁でうまい棒を買っているのを発見したので、単独行動をした制裁として肉にしました。因みに、上野から高田馬鹿まで直進せず、山肉線に沿って移動しているのは、道に迷うのが怖いからです。更に山肉線に沿って進行し、田端の手前くらいまで行くと、残りの4人の動きが目に見えて鈍くなっていました。もう疲れたと訴えます。そこで自分は、4人のうち最も元気の無い1人を肉にして、残りの3名に食わせて体力回復を試み、更に進もうとしました。しかし、彼等はあまり回復してはおらず、動きは鈍いままでした。仕方ないのでもう1人肉にして、残る2人に食わせました。しかし、この2人は食いきれないと言って、肉を残したのです。何たるバチあたり。自分は天誅として2人を肉にしました。ここで、上野公園から連れて来た隣人が1人もいなくなってしまいました。肉が残るばかりです。困りました、これでは大量の肉を馬鹿田大から上野公園に持ち帰る事も、タリバソ先輩を数の暴力で始末する事もできません。とりあえず今は、目の前の肉を無駄にせず有益に使う事を考えねばバチがあたります。と、その時、下校中の小学生2名が通りがかりました。自分は咄嗟に小学生達を呼び止めると、

「肉持ってけ、肉!」

と言いながら連中のランドセルを開けて肉を詰め込もうとしたのですが、小学生達は例を言うどころか泣き叫びながら逃げ出したのです。何たる非礼。自分は刃物を持って追いかけると2人とも肉にしました。これによって更に肉が増えてしまい、自分は大変困りました。仕方ないので、最寄の吉野家の軒下に全ての肉を置いてから、その日はもう上野公園に帰りました。吉野家ならきっと有益に使ってくれる事でしょう。

 

終章 空から白い粉が降って来た! 〜僕らのホワイトクリスマス〜

 その後もタリバソ先輩は邪教の祭典たるクリスマスの日に白い粉を撒く等して馬鹿田大内で肉を増やし続け、一方自分はヒゲの多い隣人達を使って何とかしようとしたのですが何とかなりませんでした。そうこうするうちに、先述の「主婦を肉にしてアフガソに送ろう」プロジェクトにより、日本国内の主婦がほぼ全滅し、政府は新たなる肉資源を探し始め、次は「老人を肉にしてアフガソに送ろう」プロジェクトが、続いて「団塊の世代を肉にしてアフガソに送ろう」プロジェクトが始まりましたが、やがていずれも老人と団塊の世代の枯渇により行き詰まってしまい、今度は「大学生を肉にしてアフガソに送ろう」プロジェクトが始まってしまったので、自分は大学やめて上野公園で大人しくしている事にしました。

 

 

   完