200X年、世界は核の炎につつまれた!!
治安や雇用を始めとするあらゆる社会基盤は崩壊し、世は再び暴力が支配する時代になっていた。
しかしそこに、世紀末救世主は現れなかった。
現れたのは、異能の才を持つ魔法少女、及び魔法幼女、魔法熟女、魔法老女、魔法少年、魔法親父等であった。
42歳フリーターの債玉融助(さいたまゆうすけ)は、刺身にタンポポを乗せるアルバイトを終え、家路の途中にあった。核による社会崩壊後、世の労働環境は益々悪化し、融助はたった今、46時間連続の不眠不休の労働を終えたばかりであった。だが今から4時間後には、また次のシフトが始まる。近い内に過労死するかも知れないと、融助は漠然と、しかし強く思っていた。
街の掲示板に貼ってあるミニコミ誌の広告を見てみると、何でも請け負うと言う魔法少女等の事務所の宣伝が幾つか載っていた。「魔法少女シロガネーゼ」、「魔法長者ヒルズ」、「魔法中年さぶ」、……。彼女等なら、自分を過労死への下り坂から救う事が出来るのかも知れない。だが、いずれも相談料が弁護士並みに高い。最低賃金以下でこき使われている融助に払える額ではなかった。
掲示板から顔を背け、改めて寝起きしているネットカフェへ向かって歩き出すと、朽ちた電柱に貼ってある違法ビラの数々が目に入って来た。それらは風俗だの闇金融だの怪しい業種のビラであったが、連絡先は固定電話ではなく携帯電話の番号しか表記されていなかった。「090金融」などと呼称される、ひときわ怪しい事業者達のビラだった。その中に「魔法少女しがらみちゃん」というのがあった。こんな所にビラを貼るくらいなので余程客に困っているのか、「相談料1時間160円(臓器払い不可)」と妙に安い。
遂に、異能の才に恵まれた魔法少女までが、090金融まがいのビラを貼るようになったか、世も末の末だと融助は思った。
2時間後、融助はボロアパートの一室に呼び出された。どうせ過労死するのなら、最後の最後に怪しい魔法少女に頼ってみようと電話を掛けたらそこに来いと言われたのだ。かないみかの様な萌えボイスだったので融助は少しワクワクしていた。
木造アパート2階の、「魔法少女しがらみちゃん事務所」と書かれたドアのノブを捻った。
中では、目尻や口元に小ジワが刻まれたタンクトップ姿の絶妙な年齢の女性と、全身猿の様に毛深く髯モジャで黄ばんだブリーフ一丁の肥満男が、大根を生でかじっていた。
ドアを開けた融助と目が合った。
「見ちゃダメーーー」
絶妙な年齢の女性が、かないみかボイスで叫びながら、トイレの詰まり解消用のラバーカップを一閃させると、太陽を直接見るより眩しい光が溢れ出した。
「目がー! 目がー!」
強烈な光線で網膜を灼かれた融助は失明した。
「目がー! 目がー!」
「もう、目になんか頼っちゃダメ。心の目で見るの!」
「さ、さっき、さっき、最後に何かイヤなものが見えた! 俺の期待を打ち砕く何かイヤなものがあああ!」
「あれはきっと私のパパとママだよ」
「そ、そうなのか? (でも声が……)」
「私は魔法少女しがらみちゃん。こっちはペットのはんざいくん。よろしくね」
「ああ……(来るんじゃなかった……)」
「それとあなたにはもう、嗅覚と聴覚しか残っていないんだから、鼻と耳を鍛えて生きて行こうね」
融助は嗅覚に神経を集中させた。
加齢臭と野獣臭がした。
―― 続く ――