ラーメン対カレーライス

(オリジナル小説)

 

 

※前書き

 私が高校生の時、某大手出版社主催の「高校生作文コンクール」と言うのが有りまして、「占い」「いたずら」「ラーメン対カレーライス」の3つのテーマを3人で分担して書き応募すると言うものでした。「ラーメン対カレーライス」を割り振られた私は、「語順からしてラーメンが攻めでカレーが受けだね」という文学部仲間のやおいねーちゃんの激しく意味深長な台詞に感涙しつつ1日で書き上げたのでした……。

 

 


 

 ラーメン対カレーライス  〜猿ラーメン〜

 

「ぬうりゃあ!」

 ラーメンの屈強な拳が、カレーライスの貧弱な上腕九頭筋にめりこんだ。公園の地面に不様に転がったカレーに、ラーメンが更に追い討ちをかける。

「や、やめてっ…僕何もしてないっ!」

 しかし全く耳を貸さず、攻撃の手を緩めないラーメン。

 その時……

「コラッ! 何やっとるか!」

「そこ! やめなさい!」

騒ぎを聞きつけた警察麺が2人やって来て、ラーメンを取り押さえた。

 

 この世界には2種類の種族がいた。人口の90%を占めるラーメンと、残り10%のカレーライス。憲法では両種族の平等が謳われていたが、カレーに対する昔からの差別はまだまだ根強く残っていた。カレーはカレーで有る限り、能力も正当に評価されず、出世も出来なかった。あの日、ペットのサボテンの散歩中だったラーメンは、公園で偶然に遭遇した知り合いのカレーに訳もなく無性にむかつくものを感じ、ついつい殴る蹴るの暴行を加えてしまったのだ。

 ラーメンには、禁固2日・腹筋3回と言う妙に軽い実刑判決が下された。何故なら裁判官も検事もみんなラーメンだったから。しかし、そんな事はこの世界では日常茶飯事だった。

 

「2日かぁ……楽なもんだ……」

 刑務所に入れられたその日の昼下がり、早くも腹筋3回を終えたラーメンは暇を持て余してぼーっとしていた。

『桃クラゲ 雪子』

 いきなり名前を呼ばれてびっくりすると、いつの間にか牢の前には監守麺が立っていた。

『面会ぞ』

 

 面会に来たのは母だった。ラーメンとは仲が良く、そこそこ望ましい親子関係を築いていた。

「雪子……今日はお前の誕生日だったね……」

「うん。4百歳だからやっとコーヒーの動脈注射が出来るよ」

「で、母ちゃん何しに来たの?」

「あのね……お前が大人になったら言おうと思ってたんだけどね……」

 この世界には2種類の種族がいる。ラーメンとカレーライス。

「わざわざ刑務所まで言いに来なくても……」

 しかし、ラーメンは更に2つの種族に分類される。

「実はね……お前の父さんの母さん、つまりお前のおばあちゃんはね……」

 普通のラーメンと猿ラーメンに。

「猿ラーメンだったん……だよ……」

「……え?……………………」

 猿ラーメンは全人口の1%しかいない。だが、猿ラーメンはラーメンにあってラーメンに非ず。その地位はカレー以下、いや虫けら以下の究極の被差別階層であった。

「じゃあ、死んだ父ちゃんの言動……特に芋を洗う仕草がどことなくお猿じみてたのは……」

「猿ラーメンのハーフだったからだよ……」

「そ、それじゃ……あたしは……」

「猿ラーメンのクウォーターなんだよ……」

 嗚咽にまみれて、母は言った。

「…………嘘……だろ…………………」

 長い長い沈黙。

「……差し入れにコーヒー持って来たよ。打つかい?」

「……うん……」

 

 その夜、ラーメンは泣いた。カレーや猿ラーメンの上に立っていた自らの誇りとプライドが音を立てて崩れて行くのを感じながら。幼い頃、寄ってたかって猿ラーメンをいじめたのを思い出しながら。猿ラーメンをいじめる時、そこにラーメンとカレーの差別はなかった。種族の枠を越えた友情さえ生まれた。みんながいかにして猿ラーメンをいじめるかを考え、目をキラキラ輝かせながらそれを実践した。

「……ひ……」

 

 翌日、釈放されたラーメンは家路に向かっていた。街の人込みの中を歩いていると、ふと1人のカレーと目が合った。10メートルほど前方の交差点で信号待ちをしているそのカレーは、ラーメンがボコボコにしたあのカレーだった。

 思わず立ち止まるラーメン。ラーメンの横をどんどん過ぎて行く通行麺たち。

 にやり……

 カレーの口が、笑みの形に変わった。侮蔑と差別の喜びに満ち満ちた、邪悪で残酷な笑みの形に。カレーはもはや、ラーメンの秘密を知っていた。

 しかし次の瞬間、カレーの口は恐怖に引きつった。

 ラーメンがマントの内ポケットからバタフライ木魚を取り出し、殴りかかって来たから。

 

 完

 


 

※後書き

 この話を書き上げ、「オレ、こんなの顧問の所に持ってくのヤだよ」と渋る部長殿を何とか説得して顧問に見せに行って貰った訳ですが、15分後戻って来るなり彼女は言いました。「ボツだってさ」。がびーんとなった私は直接顧問に理由を聞いた所、「うん確かにね、こういうのもね、アリだと思うけどね、暴力シーンとかね、とある武器を連想させたりしてね、やっぱし学校としては応募出来ない訳なんですよ御免なさいホント」との事で、やぱしあの時期にバタフライ木魚はクリティカルすぎたのでしたとさ。