愛こそ全て 第1章

(オリジナル小説)





 いずれの御時にか、女御・更衣あまた候らひけるなかに いとやんごとなき際にはあらねど(゚д゚)と(・∀・)がいました。

 (゚д゚)と(・∀・)は、幼馴染にして恋人同士という神岸あかりと藤田浩之みたいな関係でしたが、両家は政治的・宗教的信条の相違の為に、物心つく前から家族ぐるみで罵詈雑言の浴びせ合いや殺し合いを繰り返しており、ある日 遂に(・∀・)は自分の孫を使った自爆攻撃で(゚д゚)の殺害に成功したものの、以後、怨霊として不自由な生活を送る破目になった(゚д゚)は報復として、夜な夜な近所の熊みたいな中年豊満オヤジに憑依し、泣き叫ぶ(・∀・)に田亀源五郎先生の作品ばりのハードコアな仕打ちを朝まで強行しておりましたので、2人の間には事象の地平線の如く絶対的に超えられない溝がありました。

 

 ある日、(゚д゚)と(・∀・)は領土的野心の為に、同盟を組んで近所の家に侵略を開始しました。

 まずはセオリー通り、昼食時で一家全員が集まっている所を狙って、(゚д゚)が手榴弾を投げ込んで7人中5人を爆死せしめました。

 生き残った('A`)と(<●>┏∀┓<●>) が頭髪をアフロ状にして勝手口からヨタヨタと焼け出されてきた所を(・∀・)が釘バットでボコボコにして屈服させました。

 こうして(゚д゚)と(・∀・)は、新たな農地と労働力を手に入れました。

 

 (゚д゚)と(・∀・)は、この様にして、次々と周辺の罪もない人々の土地を平らげて覇道を突き進んで行きました。

 そして、征服した土地には自らの眷族を管理人として入植させ、屈服させた人々を牛馬の様に農作業に使役して搾取しました。

 (゚д゚)と(・∀・)は搾取した利益を使い更なる侵略を繰り返し、その富は雪ダルマ式に膨れ上がり、竪穴式住居だった(゚д゚)の家は金のシャチホコ付きの城塞に建て直され、段ボールだった(・∀・)の家は砲台を数百門配備した東京都庁みたいな要塞になりました。

 そしていつしか、地上の支配者とでも呼ぶに相応しい財力と権力を築き上げていたのです。

 

 あらゆる物的な欲望は全て満たされ、生活は王侯貴族の様な至れり尽くせりのものとなり、物質的な豊かさを極めてから数年後、(゚д゚)と(・∀・)は「精神の幸福」という事について考える様になりました。

 しかし、それは雲を掴む様に曖昧で、極めて難しい問題でしたので、どうすれば心も満たされるのか、2人は考えても考えても分からず、試行錯誤を繰り返しました。

 

 (゚д゚)は、財力に物を言わせ、世界各地のありとあらゆる高価な美術品や刀剣・武具を大英帝国顔負けの非人道的な方法で収集しましたが、集めても集めても次の欲望が噴き出し、心が満たされる事はありませんでした。

 (・∀・)は、身の回りの世話をする侍女達の制服を、三度の飯より大好きな水着鎧にしてみましたが、2Dと3Dのギャップに絶望する結果に終わりました。

 (゚д゚)は試しに出家して仏門に入ってみましたが、寺での厳しい規律と生活に耐えられず、翌日には腹いせに寺関係者を皆殺しにして帰って来てしまいました。

 (・∀・)は、現実には体験出来なかった、ToHeartみたいな甘く切ない高校生活を追体験しようと、領地内に校舎一式を建設しましたが、ヒロイン達をどう用意するのかと言う問題で行き詰まり、悩み抜いた末に発狂。盗んだバイクで走り出し校舎の窓ガラスを壊して回り、計画は頓挫しました。

 (゚д゚)は、今までの人生を考え直し、地道にコツコツ働く事が満足をもたらすのではないかと考え、一から苦労して勉強して振り込め詐欺を始めましたが、ヒット率が余りに低く嫌になって投げ出そうと思った所で逮捕され、2年間臭い飯を食いました。

 (・∀・)は、宇宙史上最高にエロくて萌える漫画を執筆して究極の自己満足と世間からの賞賛を得たいと思い、3年間部屋から出ずに毎日毎日漫画を描いて描いて描きまくって努力しましたが、どんなに切磋琢磨を重ねても古代エジプト文明みたいな絵が一向に上達せず、ファラオとアビヌスみたいな2人組(美形主人公と猫耳ヒロイン)が意味もなく粘性の液体を頭からかぶったり触手に絡まれたりしながら巨悪を倒し宇宙を救う超本格スペクタクル純愛ロマンスを描き上げたものの、限り無くゼロに近い支持しか得られず、とうとうある日、(・∀・)は自分の手首を切り付けながら、一度死んで赤松健に生まれ変わるんだと泣き叫んでいる所を侍女達に取り押さえられ、それっきり燃え尽きた様に断筆してしまいました。

 

 そんな果てなき求道に疲れたある日、(゚д゚)と(・∀・)はピクニックに出かけました。

 その日は(・∀・)の茶寿の誕生日だったので、早起きして豪勢なお弁当を用意し、柔らかい草が風にそよぐ草原を歩いて歩いて、領地が一望できる彼岸花がびっしりと咲いた丘の上まで行き、沙羅双樹の木陰で座ってお弁当を広げました。

 地平線の向こうまで広がる草原と領地の農園を見下ろしていると、(゚д゚)と(・∀・)はふと悩み事を忘れ、実に穏やかな気持ちになれました。

 昨日までの求道と苦悩の日々も、血で血を洗い覇道を突き進んだ赤黒い記憶も、遠い世界の他の誰かの出来事の様に思えてしまいました。

 このまま、この穏やかな瞬間が永遠に続けばいいのに、とすら思いました。

 しかし、城塞に帰れば(゚д゚)と(・∀・)に待っているのは、物質的には限り無く豊かであれど、多忙で荒んだ毎日です。

 領内を徹底的に管理し、収穫を搾取、反乱を抑制。

 常に統治システムの改良を行い、独裁体制の崩壊を防ぎ続け、そして誰も信じられず、誰も愛せず、誰からも愛されず、暗殺の恐怖に怯え続ける。

 そんな日々に疑問を持ったからこそ、(゚д゚)と(・∀・)は精神の幸福を探求し始めたのですが、それは2人を益々悩ませる結果になったのでした。

 (゚д゚)と(・∀・)は草の上に寝転びながら、何時間も語り合いました。

 何を求めて血の覇道を突き進んだのか。

 覇道の果てに何を手にしたのか。

 今何が2人を苦しめているのか。

 そして日が暮れて、狼の遠吠えが響く真夜中になって、ようやく出た結論は、「蒸発してニートになろう」でした。

 

 

 ―― 続く ――