愛は時空を超えて

(オリジナル小説)





 いずれの御時にか、女御・更衣あまた候らひけるなかに いとやんごとなき際にはあらねど(゚д゚)と(・∀・)が居ました。

 (゚д゚)と(・∀・)は、幼馴染にして恋人同士、そして同人サークルの相棒同士という間柄でしたが、2人が3歳の時、ほんのちょっとした下らない事が原因の喧嘩の末、(゚д゚)は深夜に(・∀・)の家にガソリンを撒いて放火、その結果(・∀・)一家は両親と妹が焼死、それ以来全財産と家族を失い独り残された(・∀・)は世の辛酸を嘗め尽くす筆舌に尽くし難い悲惨な人生を歩む破目になったので、2人の間には決して埋められないクレバスの様な深く冷たい溝がありました。

 

 親がパチンコ中に車内で幼児が熱死する事件が都内で2件発生するほど暑い暑い夏のある日、2人は夏コミに出かけました。

 サークルが当選していたのでサークルチケットが3枚あったのですが、一緒に入場する予定だった(゚∀゚)はWinMXのやりすぎで半月前に逮捕されていたので、(・∀・)は余った1枚のチケットをネットオークションに出品して小金を稼ごうとしたのですが、欲を出して自作自演で落札価格を吊り上げすぎて結局誰にも落札されませんでした。

 そんな訳で、結局2人だけでコミケ会場であるビックサイトに向かっていたのですが、貧乏性な(・∀・)はサークルチケット1枚が無駄になるのが勿体無くてたまらなかったので、途中の上野公園でホームレスを1人拾って荷物持ちとして連れて行く事にしました。

 ホームレスを連れて公共交通機関を利用する際は、改札で全力疾走したり駅員を張り倒す必要があり大変苦労しましたが、ビックサイト入場に際しては、徹夜組等の臭オタが無数に居る為か、ホームレス連れでも特に咎められずあっさりと入れました。

 

 サークル主宰である(゚д゚)は今回のコミケでは、にっくき逆カップリングやおい同人作家の葬儀をやるつもりでした。

 サークルカットにも葬式予告を書いており、今日まで米びつに剃刀を仕込んだり、夜道で硫酸を浴びせようとしたり、極めて危険と評判と闇金融をその作家名義で借りまくって滞納しまくる等して、何とかその同人作家を殺そうと努力を重ねていたのですが、未だに殺せていませんでした。

 今日この会場で殺すのが最後のチャンスだと思っていたのですが、危険を感じたその同人作家は今日は会場に来ていませんでした。

 このままではスペースでする事が何もなくなってしまい、サークルカットを見て来た人達に袋叩きにされるばかりではく、ダミーサークルと解釈されオンライン・オフラインで誹謗中傷や精神的・物理的攻撃を浴びる事になりかねないので、(゚д゚)は代わりに(・∀・)を殺して(・∀・)の葬式をしようと咄嗟に思い付き、持っていたネズミ花火7発に着火して(・∀・)の口の中にねじ込みました。

 日本の夏らしい爽快感あふれる炸裂音を発して(・∀・)の口腔内で激しい火花が飛び散り、(・∀・)の口や喉の中がほんのり炭化しましたが(・∀・)は死にませんでした。

 続いて(゚д゚)はパイプ椅子を振り上げてトドメを刺そうとしましたが、その前に(・∀・)は素早くスタッフによって救護室に運ばれて行ってしまいました。

 攻撃対象がいなくなってしまい(゚д゚)はパイプ椅子を振り上げたまま周囲を見回すと、(・∀・)が上野公園で拾ったホームレスが斜め後ろにヌボーっと立っているのに気付きました。

 一般入場開始時間まで30分を切ってしまい焦りを感じていた(゚д゚)はホームレスを殺す事を即決し、不良高校生がホームレス狩りする際のテンプレに沿って、ホームレスの社会的存在意義を根本から否定する屁理屈を叫びながらパイプ椅子を振り下ろしましたが、一発殴ったらホームレスは日本語離れした奇妙な悲鳴を撒き散らしながら栄養状態の悪い中年とは思えない俊敏さで走り去ってしまいました。

 またしても殺す対象を失ってしまった(゚д゚)は、更に焦燥を感じました。

 このままでは、サークルカットを見て来た客達に、自分が殺されてしまいます。

 (゚д゚)は、こうなったら誰でも良いと思い、パイプ椅子を構えたまま左隣のスペースを見ると、そこにはベジータの菊人形を組み立てているコニー体型の同人女が2体おりました。

 1体はピンクハウス装備、もう1体はサイヤ人の戦闘スーツのコスプレをしておりベジータのコスプレのつもりらしいのですが変身ザーボンにしか見えませんでした。

 (゚д゚)は目前に迫る自分の死を回避する為、近くに居る方である変身ザーボンに向かって後ろからパイプ椅子を振り下ろしました。

 鈍く低く短い音を立ててパイプ椅子は変身ザーボンに少しめり込みましたが、コスプレ鎧と分厚い脂肪層に阻まれて、殆どダメージはありませんでした。

 (゚д゚)が全然効いていない事に気付いた次の瞬間、変身ザーボンは両手に1冊ずつコミケカタログを構え、振り向きざまに(゚д゚)の頭部を左右から挟み込む様な強力な打撃を放ちました。

 避けなければ、死ぬ、と、(゚д゚)の本能が直感した次の瞬間、左右からコミケカタログに挟み潰されて(゚д゚)の頭部が砕け散りました。

 変身ザーボンは、左右から振り下ろした両腕を交差させた体勢のままで動きを止め、暫く肩で息をしていましたが、やがてコミケカタログを(゚д゚)の死体の傍らに投げ捨てると、ピンクハウスの所へ戻り、共にベジータ菊人形の組立作業を再開しました。

 

 それから10分ほど経過した後、(゚д゚)のスペースに(・∀・)とホームレスが戻って来ました。

 (・∀・)とホームレスは、(゚д゚)の死体を担ぐと、そそくさと会場を去って行きました。

 (・∀・)は、手に何か紙切れを持っています。

 それは、結婚届でした。

 

 その後、(・∀・)は区役所に行き、死亡届ではなく、結婚届を提出しました。

 結婚届には、(゚д゚)と(・∀・)の名が書いてありました。

 それは、(゚д゚)と(・∀・)が、法律上の夫婦になった瞬間でした。

 (・∀・)は区役所の建物から出ると、真夏の青空を見上げました。

 太陽の輝きは閉じた瞼を貫いて眩しく、空の青さは時の流れを忘れてしまうほどに深く莫大でした。

 その空の青を見ながら(・∀・)は、同じ空の下で今頃盛り上がっているであろうコミケの事、そして、その空の彼方へ逝ってしまいもう永遠に戻っては来ない(゚д゚)の事を想いました。

 (・∀・)は、少しでも空に触れようとするかの様に、少しでも空に近付こうとするかの様に、大きく息を吸い込んで深呼吸しました。

 蒸し暑く、湿気でむくんでいるみたいな空気も、クーラーの効いた建物から出た直後の体には心地良く感じられました。

 (・∀・)は諦観と切なさを帯びた、溜め息の様な息をゆっくりと吐くと、(゚д゚)に別れを告げる様に青空から視線を下ろし、区役所の建物の軒下へ目を向けました。

 そこには、(゚д゚)の死体を担いだホームレスが体育座りで待機していました。

 (・∀・)は目で合図すると、再び区役所の建物の中へ入って行きました。

 ホームレスも、その後に従います。

 

 (・∀・)とホームレスは、(゚д゚)の死体を担いで、今度はさっき結婚届を出したのとは別の部署へと向かいました。

 エレベーターで2階へ行くと、目的の窓口のある部屋には、肉が山積みにされていました。

 それは、政府が構造改革とアフガソ援助を兼ねて行っている一大プロジェクト「主婦を肉にしてアフガソに送ろう」の受付窓口でした。

 「狩り尽くせ、一千万のガン細胞」の合言葉の下に、社会の不良債権たる第三号被保険者を捕獲、肉にしてアフガソに送るというプロジェクトで、既に約半数の五百万体の第三号被保険者を肉にしてアフガソに送っており、数え切れない数の難民達の尊い命を繋いだ偉大なプロジェクトです。

 人道支援と国内構造改革を同時に進める優れた手段として、国内だけではなく国外からも大きな評価を受けています。

 国の雇ったエージェントが各地で第三号被保険者を狩る以外にも、この窓口の様に一般市民からの第三号被保険者の肉の提出も受け付けています。

 (゚д゚)は学校を出て以来、同人活動や放火を繰り返すばかりで全く働いていない無職でしたが、(・∀・)は超零細とはいえ一応企業に勤めておりました。

 この2人が、さっきの結婚届で夫婦になった事により、第二号被保険者である(・∀・)の配偶者であり、尚且つ収入のない(゚д゚)は、第三号被保険者となります。

 (・∀・)は窓口で(゚д゚)の殺害届を書き、(゚д゚)の死体を引き渡しました。

 そして、報酬として金一封とお米券を受け取りました。

 (・∀・)はこれを見越して、(゚д゚)の死亡届を出す前に、偽造した結婚届を出して(゚д゚)を第三号被保険者にしていたのでした。

 

 帰り道、(・∀・)は荷物持ちと死体運びの報酬としてホームレスを吉野家に連れて行ったものの入店拒否されたので、大盛りねぎだくギョクを2つテイクアウトして上野公園で肩を並べて食べながら、金と肉は天下の回り物、なんて事を思ったのでしたとさ。




 完