シンデレラ眞説 〜De-Re-Charat〜

(オリジナル小説)

 

 

 これは元々、三次元知人の方に「仮面舞踏会」というお題を頂き、それに対して書いたものです。いいですか皆さん? 仮面舞踏会ですよ。

 


 

 昔々、まだバヴルが弾けるずっと前、或る所に一家が住んでいました。

「今日は仮面舞踏会よウフォフォフォフォ」

「被るのよ被るのよ」

 母親と姉2人は夜な夜な仮面舞踏会に出かけておりましたが、末っ子は自宅でアンペイドワークに従事させられておりました。

「なんてこったにょ。奴等は今夜も男を漁りに行くにょ。あたしは扱き使われて枯れて行くだけなのかにょー」

 因みに、父は北国に単身赴任中であり、大黒柱なんて所詮只の金ヅルでしかない事を噛み締めながら仕送りを搾り取られるだけの辛い日々を送っています。

 母親と姉達は、全身白ずくめのローブを着て、白いフルフェイス三角頭巾を被りました。

「今日の為に新しい鎌を買ったのよ見てこの輝きハァハァ」

「昨日から徹夜で釘バット作っちゃった」

「じゃー行ってきまーす。でれこ、掃除よろしくね。鍛錬室の血しぶき拭いといてよ」

「行ってらっしゃいにょー」

 

 1人残されたでれこは、取り敢えず言われた通りに鍛錬室の血しぶきを掃除し始めました。

「ああ、ヘモグロビンの鉄分の臭いがするにょ」

 

「あたしも仮面舞踏会に行ってみたいにょー……。でも何処でやってるのか分からないにょ」

 愚痴っているだけでは何事も解決しません。でれこは電話帳を開きました。

「はい、こちらマッスル探偵事務所です」

「尾行を頼みたいんですがにょ」

「浮気調査ですか?」

「いや、そうじゃなくてにょ……」

「では、料金形態のご説明を……」

「……金ないから結構ですにょ……」

 ガチャ。

「駄目だにょ。この国の人件費は高過ぎだにょ」

 今度は別の所に電話をかけました。

「はい、人材派遣の蛇頭で御座います」

 

 やがて、ちょっとエスニックな顔立ちの、辛い労働でも低賃金で文句一つ言わず働く若者(偽住民票付き)が送られてきました。

「コードネーム『アー』さん、宜しくだにょ」

「よロしク」

「なんで語尾にアルが付いてないにょ?」

「ソレ酷い偏見」

「取り敢えず今夜、奴等を尾行して仮面舞踏会の場所を探って欲しいにょ」

「分かりマしたワ」

 

 その夜、いつもの様に出かけて行った母親と姉2人を見送った後、でれこは屋根の上に潜んでいるアーさんに電波で指令しました。

<アーさん、奴等が出かけたにょ。尾行頼むにょ>

<了解、マスター>

<見つからない様に努々気を付けるにょ。善良な留学生を装う為に、『知恵蔵』か『現代用語の基礎知識』でも携帯するが良いにょ>

<イヤですヨ。ソんな重い物>

<じゃーカブキのパンフにょ>

 

 尾行しつつも、2人は電波でリアルタイムに連絡を取り合いました。

<目標はムササビの様ナ人間離レた動きで木かラ木へと跳び移ッて移動していまス>

<根性で尾行するにょ>

<ナンか私、通りすがリノ酔ッパらイにナンパされてしまイましタが>

<ネクタイに火ィ付けて逃げるにょ>

 ですが暫くすると、予期しない事態が起こりました。

<雨が降ってキましたねー>

<なんですとにょ!?>

 でれこが窓を蹴り開けると、確かに雨が降り出しており、しかも激しさを急速な勢いで増しつつあります。

<ヤバイにょ!>

<大丈夫、傘持ってマす>

<そうじゃないにょ。粒子が雨粒に吸収されて電波が届かなくなるにょ>

<なルほど……>

<そのへんに犯罪に便利な使い捨て携帯電話でも売ってないかにょ?>

<――――>

 しかし、既に電波は通じなくなっていました。

「なんてこったにょ。こうなったら、無事に帰るのを祈るしかないにょ……」

 

 でれこは、護摩を焚いて祈祷しました。

 その甲斐があった訳ではありませんが、約2時間後にアーさんが帰って来ました。

「マスター、場所ガ判明しました!」

 アーさんは、行く時には身に付けていなかった、血の付いたサイズがかなり小さいピカチュウTシャツを無理矢理着ていました。

「……一体何があったにょ?」

「馬鹿そウな小学生達が国籍差別発言吐きナガら絡んできたンで返り討チにするついでに物品奪っタんですが」

「ちゃんと死体は見つかり難い所に埋めたかにょ?」

「殺してまセんよ」

 話によると、仮面舞踏会は隣町の港の倉庫街で行われているとの事です。

「とにかくでかしたにょ。明日の夜はあたしも尾行に赴くにょ」

 

 次の夜。

「行って来まーす。でれこ、地下牢の死体処分しとくのよ」

「いってらっさいにょ」

 いつもの様に3人を見送った後、でれこは死体処分ではなくアーさんと共に尾行を開始しました。

 

「奴等、なんて動きだにょ!」

「あレが高山民族の底力なのデすね」

 白ずくめの3人は夜の街を、人家の屋根や樹木をムササビの様な動きで次々に跳び移って進んでいました。やがて、隣町の港の人気が無くやたら広い倉庫街に辿り着きました。

「いかにも白い粉末が遣り取りされてそうな場所だにょ」

「コこ、私が上陸しタ所……」

 3人は、立ち並ぶ巨大な倉庫のうちの1つに近づくと、入口に立っている悪魔主義者みたいな格好のガタイの良い姉ちゃんと兄ちゃんに何か見せたり渡したり話したりして中に入って行きました。

「どうやら、入るには何か要るらしいにょ」

 倉庫はやたらと高さがあり、殆ど立方体みたいな形をしていました。

「どウすンですか?」

「天井から入るにょ」

 2人は先ず、隣の倉庫の扉を灼き切って侵入し、中でパチンコ裏基盤を密造していた大きなお友達を処理してから内壁の高い場所に付いている簡易通路に立つと、窓を破って天井によじ登りました。その天井から目的の倉庫の天井に跳び移り、天井の端を音を立てない様に破壊して侵入し、内壁通路に降り立ちました。

「つ、遂に仮面舞踏会の会場に侵入したにょ……感動だにょ〜」

 2人は、天井に近い位置にある通路から、見つからない様に下を見下ろしました。

 全員お揃いの白いローブと、頭をすっぽりと覆い目の所だけに穴が開いた白い三角頭巾を着用した大きなお友達が沢山輪になって奇声を上げて踊り狂っており、手には鎌やら松明やらモルゲンステルンやら思い思いの武器を手にしていました。輪の中心には、肌の黒いお友達が磔にされていました。

「これが仮面舞踏会かにょ。初めて見たにょ。みんなドーパミン分泌しまくりで楽しそうだにょ〜」

「コれがこノ国の仮面舞踏会でスか。文化トは多様ですネ」

「ところで、真ん中の人はなんで磔にされてるにょ? 年男かなんかで祝ってもらってるのかにょ?」

「アっ、あの人ハ!」

「何だにょ? もしかしてあんたのヒモかにょ?」

「電波に目覚めかケてまース」

「そういえばそんな気配がするにょ……」

 

 国際電波士協会憲章・第29条――電波の才能があるお友達を見つけたら、よい子は速やかに目覚めさせてあげましょう――

 

「目覚メさセます!」

「今すぐかにょ!?」

「リゃア!」

 アーさんは大量の覚醒電波を肌の黒いお友達に放射しました。

 肌の黒いお友達の目や鼻や口から妖しい光が漏れだし、白ずくめのお友達は狼狽しましたが電波を感じ取れないので何も分かりません。

「かナりノ逸材です……」

「制御失敗するなにょ……」

「ア!」

 その日、300km離れた地点からでもはっきりと見えるキノコ雲が観測されたと言います。

 

 そして、因果律が歪みました。

 

 とある老人ホーム――。

「あたしらが若い頃は、ま●ちが大人気じゃったのぉー……」

「わしはス●ィー萌え萌えじゃったわい。若かったのぉ、ほんとに」

「ほんに萌えたのぅ。何であんなに萌えたんじゃろう……。あの頃のときめきは、今でも鮮やかに脳裏に焼き付いておるわ」

「不毛だが楽しい青春じゃった……」

「…………ヤラハタ達成した頃は笑っておったが、まさかヤラ死ニになるとはのぉ」

「爺さん、あんたもか。わしもじゃあ」

 

「第3ホールで萌田さんのお葬式が始まるにょ。行かないのかにょ?」

「おお園長さん、こんにちはですじゃ」

「行かんよ。なんか、葬式に行くと奴が本当に死んじまったみたいじゃからの……」

「何言っとる、死んだんじゃぞ」

「今でも、抱き枕を抱えて悶えている奴の姿が目蓋の裏に映るんじゃ……」

「…………」

「園長ー、問題ガ発生しましター」

「どうしたにょ?」

「萌田さンの遺言に『遺産は全てさ●らに』とか書いてあっテ、子供が居ないンで国が没収かト思いキや、傍系親族ト当時の作家が遺産相続権ヲ主張して揉メてんですよ」

「流石、生涯萌え続けて出生率を1.0以下に叩き落した世代は凄いにょ。せっかくだから、うちのホームも相続権を主張して三つ巴で裁判するにょ」

「マジでスか?」

「遺産管理の顧問弁護士さんも大変じゃのぉ」

 

 

 完