おまかせ! 退魔業(セイバーズ)

 ハード:セガサターン
 メーカー:セガ
 ジャンル:悪夢の実写ギャルゲー
 

 

 それは、オフ会で はにゃ姐さんにお会いした時の事、300円で売ってたと言う謎のソフトを私に下さるとおっしゃいます――。

蓬「え、でもー、いいんですか? 希少な物なのでは……」

は「まあ、せっかくですから」

蓬「でも悪いです……というか、なんかコレ、やるの辛そうですしィィ……」

は「いやー、でもー、人生楽しい事ばかりじゃありませんからぁー」

「え? ええーっ?」

 

 それは、嗅覚で感知できそうなほどに異様なオーラを放つ、実写ギャルゲーでありました。

 私、実写アイドルが生理的に非常に苦手で、ジャニーズならまだ平気なものの、頭の悪そうな実写小娘がバカ光線を照射してるのが目に入ると3分以内に鎮静剤を飲まないと死んでしまうのですが、頂いたからにはやらねばならぬと言うもの、死の覚悟をキめてスイッチを入れると、鏡の前で制服を整える実写ギャル、寝起きに変なラジオ体操してる実写ギャル、寝返りを打ってベッドから落下する髪にぬいぐるみを十数体付けた実写ギャルなどなど、えも言われぬ恐怖と絶望のムービーがサターン特有の低画質で再生されて、もうこれだけでその日を生きる活力を全て吸い尽くされてしまいます。これらはいずれも二次元(アニメ絵)の世界では時々見られ得る、決して珍しくないシチュエーションなのですが、いざ実写でやってしまうと驚異的なレベルのおぞましさの高みに達しております。んでもってついでに申しますと、ヒロイン3人の中のデフォルトのヒロイン「夢月」は、髪型がいわゆる「ツーテール」――つまりルリちゃん16歳バージョンとほぼ同じ髪形をしているのですが、生身の人間がこれをやってしまうと顔の長さと頬骨がイイ感じで強調されてしまい、二次元と三次元の絶望的な格差を体現する実に悲哀に満ちた結果となっています。

 

 オープニングムービーを何とか耐えきると第1話スタート、ストーリー導入部もイカれたムービーです。いきなり1605年に謎の呪術師の爺さんが奇声を上げながら妖怪を封じているシーンで始まったかと思うと、次の瞬間舞台は現代日本へ。高校の遠足に来たヒロイン3人組、石を積み上げてあるだけの怪しげな物体の前で記念写真を撮ろうとして主人公君にカメラ渡して撮影を頼みますが、1人がうっかり積石を触って崩してしまいそこに封じてあった江戸時代の妖怪達が復活、それに捲き込まれて主人公君はチョコンと前髪の生えた可愛らしい白い人魂になって謎のペンダントに封じ込められてしまいました。そのペンダントには400年前に妖怪を封じた呪術師爺さんの意識も入っており「お前ら責任とって妖怪を封印しろ」と当たり屋の様な事を言われてヒロイン達は変身能力を獲得、以後主人公君はヒロイン達の首にぶら下がって行動を共にする事になります。ギャルゲーの多くは、オタク青年の心理的「同一化」を促す為なのでしょうか、大抵前髪で目が徹頭徹尾隠れてたり 画面から極力排除されていたり 主人公君だけボイス無しだったりする中、ペンダントになってしまうというパターンは非常に斬新なのですが、だからといって感心が湧いて来る訳もなく、かえって変な嘲笑が湧いてくる点は、ギャルゲーはまだまだ被差別のメディアだという悲しい事実を如実に証明しいるのではないでしょうか。

 ここで、主人公君の名前入力を求められるのですが、平仮名のみ・4文字のみ・濁音と半濁音も1文字 という古代の化石の様な仕様になってます。

 

 で、散らばって行った妖怪を退治に向かうのですが、封印を解いてしまったのが遠足先の筈なのに以後の舞台は自分達の住む街なのは何故なのかという不条理な疑問も解決されないままにまたしてもムービーが! しかも今度のは、3人+ペンダント主人公が街を歩いている実写シーンに、CG合成されたギャルゲーとは思えぬ異常な絵柄のぶんぶく茶釜とケーキが奇妙な軌道を描いて体当りを仕掛けて来るというこの世の物とは思えない代物でして、その絵柄の恐ろしさと言ったら、実際に見ないと分からないでしょうから画像をお見せしますが、どっかで見た絵柄だと思ったら「ガキの使い」の説明シーン等で稀に出てくる変な絵柄に似てるような気がしてならないのでありました。

どうあがいても 大人しく見えないんデスが……

 ここまでの一連の恐怖ムービー嵐が過ぎるとようやっとゲーム本編です。2Dのマップ画面を2頭身のSDキャラを操作してRPG風にストーリーを進めて行くのですが、恐ろしいのはスーファミ並のビジュアルのショボさではなく、セリフが一文字一文字表示されるのに合わせて「ポポポポポ」「ペペペペペ」などと音が出るファミコン時代の伝統を頑なに守る化石演出と、それに加えてヒロイン達のセリフの度に画面右上に不気味な顔面実写画像が表示され処理が無駄に重くなっていると言う点です。しかし、そんな過酷なマップ画面ですが、そこを動く2頭身のデフォルメSDキャラはそこそこ可愛くて歩く時の髪の揺れなんかもかなり秀逸に作り込んであるのですが、だからと言って「なんだ、デフォルメキャラ絵は結構見れるじゃないですか」とか一瞬心を許してしまうと、次の瞬間突如現われる恐怖の実写顔面画像が網膜を介して脳内に情け容赦無く侵略して来て、鎧の隙間から鋭利な刃物を差し入れられて下の柔らかい肉をザクザクと切り刻まれたかの様な痛みを心に覚えます。対策として、画面右上に紙を貼って実写画像が目に入らない様にしてプレイすれば、実写である事を忘れてショボいCGギャルゲーとしてプレイ出来なくもないのですが、稀に画面左上にも実写画像が現われるので努々注意を怠ってはいけません。

 

 ストーリーのネジの緩み方も一級品で、ぶんぶく茶釜が街中のケーキ屋を襲いケーキを奪い尽くしてしまった為に、ケーキに異常な執着を示す夢月がケーキケーキケーキケーキ叫びながら追跡するのですが、この幼児性溢れる行動、二次元ギャルなら笑って許す事も出来るのでしょうが、実写ギャルがやってるのを見ると、「うわあぁぁあぁあ お前等みたいな馬鹿女ばかりが バカスカ離職・結婚・出産するから日本が駄目になるんだあぁああ」内なる良心が優生学的な義憤に震えるのを感じます。

 その様な狂った展開の後、ぶんぶく茶釜を追い詰めて封印する段になりヒロイン達が変身します。3人の名字「夢月・加菜月・如月」からも、無理 無駄 無茶にセーラームーンを意識した事は明らかなのですが、一体どうすればここまでの腐れアレンジが可能なのでしょうか、セーラー服と山伏装束を交配してミュータントを起こした様なコスチュームの気の触れ具合は空前絶後、制作現場の誰かがたとえ1人でも「これはマズいデス」と言わなかったのかと思うと、現場のやる気とモラルの低さが偲ばれます。奴等のコスチュームの胸元あたりには、梵字――つまりサンスクリット文字があしらってある謎の物体がぶら下がっておりますが、デザインした人も含めてスタッフ全員、意味も読みも分かってないに違いありません。

悲劇

 そしてその悲劇の最たるのはこれまたセラムンそっくりな変身シーンでして、実写アイドルが妙ちきりんなCGエフェクトを背景にバサバサ服が剥がれてレオタード姿もどきになり吐き気と生理的嫌悪感を誘発された後、例の山伏衣装で決めポーズされると生きているのが辛くて辛くて仕方なくなります。どうしようもなく陰鬱な気分でアクション戦闘場面に入り茶釜を倒すとようやく第1話終了となり、エンディングでもないのにスタッフロールが流れるのですが、それにしてもギャルゲーなのにBGMがしょっぱい三味線が伴奏に入る『男なら』という変な曲なのは一体何故なのでしょうか? んで、全部で第5話まであるのですが、よっぽど見て欲しいのでしょうか、各話が終わる毎に『男なら』をBGMにスタッフロールが挿入されてしかもスキップ不可能な事から、幹部スタッフの中に自己顕示欲が鬼の様に肥大化した方がいらっしゃったものと推測されます。

 そんな風に第2〜4話もクリアすると、ようやっと最終第5話。今まで事ある度に誰の首にぶら下がるかを選ばされており、どうやらぶら下がった回数が一番多いヒロインが第5話で主役となる様です。朝、ヒロインと主人公君が目覚めると、何気なくサターンが接続されたテレビに、ラスボス『妖怪 ドンヨクどん』が例の変な絵柄で映り公園に来いと言います。行ってみると残りの2人がドンヨクどんに捕まっているのですが、荒縄を買う予算すら無かったのでしょうか、縛られてる訳でもなく噴水にハメられててまるで昔のナショナリスト小学生の戦争ごっこです。いよいよ最終決戦となる訳ですが、1〜4面のアクション戦闘場面の難易度が実にギャルゲーらしいヌルさだったのに対し、ラスボス戦はそれまでのボスが同時に何体も出現しまくるので異常に難しく、何度挑戦してもクリア出来ません。10回近くリトライし続けた私ですが、ある瞬間ふと人生の時間の有限性が頭に浮かび、貴重な時間をこれ以上こんな事に空費するのが猛烈に恐ろしくなってプレイを中断、その時の解放感と覚醒感は、まるでカルト宗教を上手く脱会できた時の様でした。結局私の腕ではクリア不可能だったのですが、一体あの先にどんなエンディングが待っていたのかちっとも気にならない所が実にこのゲームらしい点です。

 

 それにしてもこのゲーム、一応ギャルゲーである以上、制作サイドに僅かでもプレイヤーを萌えさせようという意図があったかと思うと、ストーカー的なカンチガイで押しつけがましい負の愛を感じて背筋が寒くなります。プレイを止めると、プレイ中に負った心の痕……いや傷跡から、「実写は嫌だ」「三次元は嫌だ」「やっぱりアニメ絵がいい」という血の涙の様な切ない思いが、止める事も出来ず だくだくと溢れ出て来て、プレイヤーはプレイ前よりもより一層強くアニメ絵に惹かれ、三次元や実写への嫌悪・畏怖が強化され、社会適応性を著しく破壊されます。私自身、このゲームを進める傍ら同時進行で、新潟の少女監禁男が持っていたら絶対マスコミにバッシングされたに違いない妖精監禁育成シュミレーションDC版「メルクリウスプリティ」をプレイした所、かつてない『萌え』を体感する事が出来ました。故に、二次元美少女の美肌を見慣れるうちに、実写や三次元では何も感じなくありつつある末期症状の二次コンオタク男性にプレイさせると、最後のトドメの一刺しとなり、永遠にアッチの人とならしめる効果が期待でき、更に発売年がサクラ大戦と同じ1996年――サターンがギャルゲーマシーンへとスーパーサイヤ人的な大変貌を遂げ始める時期である事からも、このゲームが実は普通のギャルゲーとしてではなく、プレイヤーを実写嫌い・三次元嫌いにして、他のギャルゲーを大量に買わせる為の布石として開発されたのではないかと邪推せずにはいられないのでありました。