超兄貴 〜男の魂札〜

(ワンダースワン  漢のカードバトル)

 

 

 このソフト、正しくは「ちょうあにき おとこのたまふだ」って読むんですけど、ホモ色の強いシリーズだけに皆さん無意識のうちに邪悪な意思に脳をジャックされ一瞬「こんれい(婚礼)」と読んでしまうのですが、バイト先のゲーム屋のレジ兼データベースのパソコンにまでも読み方が「ちょうあにき おとこのこんれい」と登録されてまして私がキッチリと直しておきましたが、データはチェーン店の本部から送信されて来るので他の店のデータは未だ「こんれい」になってる筈です。

 ジャンルは今(この文執筆時、2000年)流行りカードバトル。日本のカードゲームブームの先駆けとなったのは英語圏から輸入された「Magic;the gathering」通称MTGという有名トレーディングカードゲームでして、その内容は非常に知的かつお金のかかる洗練されたゲーム性を誇り、その後に登場し1つのジャンルを形成するに至った他のトレカゲームも似たシステムを継承しています。私はMTGをちょこっとやった経験があるので対比してみまが、MTGでは自分のターンにカードをデッキ(自分の所有するカードコレクションから、数十枚を選りすぐって組んだカード群。プレイヤーは互いのデッキを対戦させる)の山札から1枚だけ引き、手札から「マナ」(魔法ファンタジー世界のMTGに於いて、他のカードのエネルギー源となる“魔力”)を供給するカードを1枚だけ場に出せて、そしてそのマナを源として他のカードを使うという忍耐的でストイックなシステムで、当然強いカードを使うには沢山のマナが必要――つまり何ターンか経過してマナ源が沢山場に出ないと強いカードは使えず、また、弱いカードなら割と最初から使えるという非常に絶妙な構図を持っており、プレイヤーはそれらを考えて、デッキに如何なるバランスでマナ源、強い/重いカード、弱い/軽いカードを混ぜ、そしてカードの組合せによるコンボを考えに考え知能を使い、そして効率の良い希少カードを入手する為に大金を注ぎ込む訳でして、私の高校の部活に自由になる全てのお金をMTGに注ぎ込み幸せそうに体重が10kg以上激減した御仁がいらっしゃいました。

 それに対してこのゲームの場合、1ターンに何枚引けるかはキャラにより違いますが概ね3枚も引けてしまいます。他のカードを使う時のエネルギー源となるプロテイン(蛋白質。ビルダーはみんな飲んでるぞ)カードは1ターンに1枚しか出せませんが、問題はカードを使う時にプロテインが足らなくても体で払えると言うまるでカードゲームの定石を冒涜する如く超画期的なシステムです。この「体で払う」と言うのが曲者でして、プロテインが1足りない毎にHPを10払えば良く、カードの必要プロテイン量は1〜9くらいなので、これでHPMAXが200前後ならゲーム性が確立したのかも知れませんが、各キャラのHPMAXは600〜800もあるので、デッキには威力の強い(多くのプロテインを必要とする)カードを兎に角大量に入れ捲くって最初っから体払い連発すれば勝ててしまうと言う非常に爽快感溢れるダイナミックに頭の悪い出来になってます。

 これの部分だけ見たら只の駄目カードゲーなのかも知れませんが、それよりも何よりも肝心なのは、このシリーズをこの第6作目まで存続させた唯一無二の超兄貴センスです。カードの名前からして、
「密着!大胸筋24時」「必殺!男ねぶり」
「夜這い」「はいぱーメイド服」「トイレの前に行列」
「裸エプロン」「iマッスル」「お友達でいましょう」
「個室トイレ」「男くさい部屋」「真夏の汲み取り便所」
「独身四畳半」「ADフィールド」「屈折した指先」
「俺のこの手」「悦楽吐息」「悶絶心中」
「筋電図振り切り!」「男狩り」「春・兄貴盛り」
「楽しく安心できる店」「漢(おとこ)王朝」

などなど
非常に親しみやすい電波センスで、カードを使う度に「密着!大胸筋24時」なら「常に緊張した大胸筋に取材班が密着取材!」、「屈折した指先」なら「フィンガーテクなら負けないよ。ふふっ」、「男狩り」なら「おほほほほほ! 男狩りの始まりよ」等の味のあるコメントが出て来て、何故か投げ技系カードを使うと兄貴達の間にハートマークが飛び散ったり、銀河制服を企むラスボスに向かう最中の星々に何故か神田古本街があったり、手の石像が「逃げちゃダメだ」とか喋る謎の惑星には「歌は良いねえ。それとも肉の方が好みかい?」「遅かったね…ずっと待っていたよ。来ると信じていたんだ…好意に値するよ…。肉って事さ」とのたまう身も心も渚カヲル君そっくりな一般市民「かおり君」が居たり、その他にも「兄貴…好きじゃない。筋肉…嫌いだもの」と言う「レイレイ」、「一度で良いから秋葉原に行きたいなぁ」「ああん、マ○チ萌え萌え〜ん」などと言う「オタク男」、「機械の筋肉をタダでくれる星に連れてってやる」と言う「エーテル」、「最近洗われたり叩かれたりでストレスが溜まってるんだ。 お前で憂さ晴らししてやる」「最近ロフに会ってないなあ」と言うピンクのテディベアの牢屋の看守、など、多種多様な際どいキャラ・用語が連発され、ある街の謎のアトリエでは「うおおおおおおっ俺を描いてくれえ! と、特に大胸筋が希望だ」と絶叫する兄貴が1人で孤独にポージングしておりここで何かイベントがあるのかと思ったらそれ以外一切何も無く、エンディングスタッフロールの最後「最後まで遊んでくれてありがとう。お礼にワキの臭い、かぐ?」スタッフの器の大きさを伺わせます。

 以上の様な超異常センスがアバタもエクボ効果により破滅的カードルールを見事に正当化どころか美化しておりまして、やってると結構面白かったりします少なくとも私にとっては。様式美の域まで到達した超兄貴センスが欠ければ只の破綻したカードゲーに、ゲーム自体がシビアだったら馬鹿世界を見る為に頭を使うと言う不条理ゲーになっていたと思われるこのゲーム、その2つの要素の見事な融合によりカードゲームなのに余り頭を使わずに兄貴世界を堪能出来る、全体として一本の真っ直ぐな筋の通ったゲームに昇華されてると思うのは兄貴ファンの偏った見解なのでしょうか?